元・金融OLの本棚

金融業界に返り咲きました。つれづれなるままに読んだ本について語る読書ブログ。

ロックダウン

『ロックダウン』ピーター・メイ(堀川 志野舞・内藤 典子 訳)

オススメ度 ★★★★☆

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イギリスの人気作家、ピーター・メイの初期作を翻訳で読んでみました。

タイトルからも分かるかもしれませんが、死亡率80%という新型ウィルスが大流行するロンドンが舞台の作品です。実はこの作品、COVID-19の流行よりはるかに昔の2005年(SARSの流行後ですね)に脱稿されたのですが、こんな荒唐無稽なことがロンドンで起こるわけないだろ!と出版社に一笑に付され、お蔵入りになっていたものだそうで、出版自体は2020年となっています。ピーター・メイは、ジャーナリズムの出身者らしく、執筆の際には綿密な調査を欠かさないようで、本作もSARSの流行を受けて感染症などについて徹底的に取材したようです。いまではおなじみのソーシャルディスタンスなんかも描かれていて、2005年の時点で執筆されたとは思えないリアル感があります。

 

ジャーナリスト出身の作家らしく(?)、文章は割と硬質な感じで、小説らしい登場人物の心情の機微や、読んでいて心を揺さぶられるような表現よりも、淡々と事実を述べ伝えていくノンフィクションのような雰囲気を醸し出しています。また、作中でもロンドンに実在する地名や名所がふんだんに登場し、登場人物がどこからどこまでどのルートを通ったかまでが克明に記載されているので、Google Mapを片手に旅行気分でロンドンの街並みをたどりながら『ロックダウン』を読む…なんていう楽しみ方もできました。訳者あとがきに「賛否両論のラストかも」というコメントがありますが、確かにちょっとあっけないと感じる人もいるかなーと思います。ですが、ストーリー自体は間違いなくおもしろいので、軽く読めるミステリーを探している方にはオススメです。特に最後の100ページくらいはイッキ読みでした。

 

以下、ネタバレを含むので、気になる方は本書を先に読んでみてください。

 

 

まず、この作品で一番いいキャラクターは、カステッリ博士だと思います。割と真面目な感じで進む作品のなかで、唯一のコメディ要員というか、やりすぎない程度にユーモアを添えてくれるバランスが絶妙でした。ただ、物語が半分以上進んだ段階での登場なので、もっと最初からマクニールと組んで捜査を進める展開になっていたらもっと面白かったのに…と思います。

正直、マクニールの子どもが死ぬ場面とか不要だったんじゃないかなーと思います。マクニールを捜査に駆り立てる起爆剤として使ったのかもしれないですが、読者としてはマクニールに入れこめるほど共感を呼ぶような描写でもないし、奥さんのマーサはそのあと放置だし、ちょっと中途半端になった感のあるエピソードでもったいない気がしました。

ラストはミステリー的にはすっきりした終わり方だったと思います。回収しわすれた伏線みたいなのも無さそうでしたし、真相が突拍子のないものだったというわけでもないので。ですが、主人公のマクニールよりも終始ピンキーの方が目立ってましたね。黒幕のブルームがサイコパス的な完全悪だとすれば、ピンキーは殺し屋でこそあるものの、人間としてのピュアな部分みたいなものを持っていて、自分なりの考え方というか、芯のようなものを持ち合わせているキャラクターのように感じました。最後にマクニールを助けた理由は想像することしかできませんが、自分の死が近いことを悟って、自分の手で自分の犯してきた罪に決着をつけたかったのかな、と思いました。観覧車のカプセルの床で死に絶えるよりは、自分から奈落の底に落ちていく方がなんかカッコイイですし。全身火傷で外見もめちゃくちゃになった状態で転落死だと、身元も分からなさそうなので、謎の男感も損なわれないですし…。悪役だったけど、魅力的なキャラクターでした。

 

新作の"The Night Gate"も面白そうだし、一度原書でピーター・メイの作品に挑戦してみたいです!