元・金融OLの本棚

金融業界に返り咲きました。つれづれなるままに読んだ本について語る読書ブログ。

服従

服従ミシェル・ウエルベック(大塚 桃 訳)

オススメ度 ★★★☆☆

今回はミシェル・ウエルベックによる『服従』です。もしもフランスでイスラーム政権が誕生したら…というトンデモ設定が興味深い小説ですが、フランス社会や政治、宗教を取り巻く状況など、フランスについて深い見識がないと読みこなすのは難しい印象でした(ちなみに私はフランスについて大して明るくないので、読み終えるのに結構時間がかかりました…)

ちなみに、フランスで『服従』が発売された日は、奇しくもかの有名なシャルリー・エブド襲撃事件が起きた日と同日でもあります。それほど、ヨーロッパ的なものとイスラーム的なものの間での緊張感が高まっていた時期に発表された著作であるということができるでしょう。

 

ウエルベックの描く「イスラーム」はかなりヨーロッパ的なフィルターを通した「イスラーム」であるということは頭に置いておかなければなりません。

本作の『服従』というタイトルも、ヨーロッパ人から見るとイスラーム教徒が神の言葉に「服従」するようにイスラームの規定に沿った自由意志のない暮らしをしているように見えることからつけられているようですが、これもヨーロッパの思い違いではないかと思います。実際のイスラーム教徒は、服装もお祈りも飲酒も、人や地域によってかなりスタンスが違っています。そもそも、万能の超越神と人間の自由意志の問題は西洋の知識人もかなり議論をしてきた部分のはずなので、精神的には通じ合う部分もあると思うのですが…

とはいえ、近代ヨーロッパ的な価値観とイスラームの価値観はどうしても「水と油」的な部分も存在するので、当事者同士がどうお互いを理解し、折り合いをつけて、『服従』が生まれるような素地を生み出している現況を乗り越えていくのかが大事だと感じます。まあ先はだいぶ長そうですが…。

 

いずれにせよ、本作『服従』はイスラームの存在感が大きくなるヨーロッパにおける、ヨーロッパ人の心象風景を生々しく切り取ったという意味では非常に価値ある作品ではないでしょうか。日本人にはやや響きづらいですが。