元・金融OLの本棚

金融業界に返り咲きました。つれづれなるままに読んだ本について語る読書ブログ。

銃・病原菌・鉄

『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンド(倉骨 彰 訳)

オススメ度 ★★★★☆f:id:jigglejiggle:20210912120750p:plain

いつもは小説について記事をあげているのですが、今回は少し趣向を変えて、ピューリツァー賞など数々の賞を受けた著作についてご紹介しようと思います。

この『銃・病原菌・鉄』では、「なぜ地域ごとに文明の発展の度合いに差が出たのか?」という謎に、科学的な証拠をつみ上げていくことで迫っていきます。

 

アメリカ大陸の先住民はなぜ、旧大陸の住民に征服されたのか?

上記のような問いかけをされたとき、たいていの人が世界史の授業で習った知識を引っ張り出して、「スペイン人には銃や騎馬といった進んだ文明の利器があり、加えて新大陸には存在しなかった病原菌を持ち込んだことで、新大陸側が急激に衰退したから」と答えるのではないでしょうか? これこそ、本書のタイトル『銃・病原菌・鉄』の由来であり、旧大陸が新大陸を蹂躙することを可能にした直接的な原因です。

では、「なぜスペイン(旧大陸)が『銃・病原菌・鉄』を手に入れたのであって、新大陸側が『銃・病原菌・鉄』を手に入れて旧大陸を侵略する事態が起きなかったのか?」という謎について答えは出せるでしょうか?

本書の序章でこの問題提起がなされたとき、私はハッとしました。確かに、スペインが新大陸を侵略した理由については知識で答えることができても、このような文明・技術の不均衡が起こった究極的な理由については、疑問をいだいたこともなかったからです。ジャレド・ダイアモンド博士は、ニューギニアでフィールド・ワークを行っていた当時、現地のカリスマ政治家であるヤリから似たような質問を受け、ヤリの質問に答えるべく、この人類史上の大きな謎に立ち向かっていくことになります。

 

●人類の明暗を分けたもの

当初、いわゆる「白人」たちは、この謎に対して人種間で知能のレベルに差があるからだと考えていました。しかし、ポリネシアなどでのフィールド・ワーク経験が豊かで、現地の人々とも濃密な交流をもってきたダイアモンド博士は、この考え方は「誤りである」と明確に答えます。

文庫版で上巻の153ページに載っている図が、本書でダイアモンド博士が展開する議論の骨子となのですが、博士は究極的な理由とは、つまり地理的・環境的な要因であるとの結論を出し、科学的な証拠を示して、次々と説明を試みていきます。博士いわく、旧大陸と新大陸では、それぞれの大陸に住む人々の周囲に存在している環境が異なっており、ひいては使用できるリソースに違いがあり、その違いがその後の文明の発展を異なるものにした、というのです。つまり、旧大陸が新大陸を侵略することができたのは、旧大陸の人類の知能が優れていたからではなく、旧大陸の人類の使えるリソースが有利であったからだ、という結論をくだします。そして、このリソースの不均衡が、現代社会においても人種間差別や貧富の差という形で、しこりを残しているのです。

 

もちろん、ダイアモンド博士の主張が必ずしもすべて正しいとは限らず、また博士の主張をたたき台に論考していかねばならない部分も残されているのですが、一定の納得感がある答えだと感じました。文庫本で上・下巻にわかれているので、読んでいるうちに最初の方の議論を忘れそうだと思っていたのですが、上述のとおり、主張自体は非常にシンプルなので、それなりの分量があっても混乱せずに読み通せましたよ。