元・金融OLの本棚

金融業界に返り咲きました。つれづれなるままに読んだ本について語る読書ブログ。

逃れる者と留まる者

『逃れる者と留まる者 ナポリの物語3』エレナ・フェッランテ(飯田 亮介 訳)

オススメ度 ★★★★☆

いよいよ『ナポリの物語』シリーズも三作目となりました。一作目『リラとわたし』や二作目『新しい名字』とは異なり、三作目では主人公エレナの活躍の場が広がるにしたがってミラノやフィレンツェといった北イタリアの都市も物語の舞台となります。また、エレナとリラが物理的な距離に隔てられて疎遠になるにしたがって、主人公であるエレナの描写が前二作よりも厚みが増しているのも特徴ではないでしょうか?

 

二作目『新しい名字』がリラの結婚生活の物語であったとするならば、三作目『逃れる者と留まる者』は主人公エレナ自身の結婚生活の物語と言えるでしょう。

内容としては、作家として成功を収めた自身のキャリアを追い求めていきたい気持ちと、家事や育児に忙殺される日々との板挟みの中、協力的ではない夫ピエトロとはすれ違い…というよくあるもので、正直「素材」としての古さは否めないかな…と。ただ、エレナ(とリラ)という女性の体験やその時々の思いを「小説」という形で読者が追体験していく本作では、いわゆる通り一遍のフェミニズム論を読むよりもずっと生々しい形で女性の闘いの軌跡を実感できるのではないかなと思います。女性であれば少なからず「こういうことあるよね!」と共感できる部分も多いと思いますが、男性読者の感想も聞いてみたいところ。

(以下ネタバレ含みます)

 

 

もちろん、あの魅力的で頭脳明晰なリラは今回も随所で躍動しています。前半の方では勤務先のソーセージ工場での理不尽な扱いに対抗するために労働闘争的なうねりを引き起こしていくのですが、その場面ではファシスト共産主義等、当時のイタリアが置かれていた政治的な状況が見事に描写されています。

イギリスやアメリカはアンチ共産主義の土壌が一貫して存在している印象ですが(オーウェルの『1984』なんかもそういう雰囲気が詰め込まれた作品ですよね)、フランスでは第二次世界大戦直後は結構共産党の力が強かったという話も聞きます。イタリアでも同じように労働者の立場向上という意味で結構共産党の集会なんかが開かれていたんですね。エレナやリラが育った地区の同世代の男たちも政治的活動に邁進する様子がそれぞれに描かれています。

まだまだ登場人物たちが無邪気で若さに躍動していた『リラとわたし』『新しい名字』と、大人になって生活や社会情勢にもまれていく『逃れる者と留まる者』および四作目『失われた女の子』は同じシリーズでもかなりトーンが変わるなあという印象です。

 

ちなみに、リラとエンツォはコンピューター技師として成功を収めていくのですが、コンピューターの黎明期の描写なんかも興味深いです。

 

そして、リラに続き結婚生活の破綻したエレナがニーノと不倫旅行に飛び立つ場面で三作目が終わるのですが、またもニーノやってくれたなと笑

こういう悪い男が魅力的に見えがちってなんでなんですかね笑