元・金融OLの本棚

金融業界に返り咲きました。つれづれなるままに読んだ本について語る読書ブログ。

新しい名字

『新しい名字 ナポリの物語2』エレナ・フェッランテ(飯田 亮介 訳)

オススメ度 ★★★★☆

前作である『リラとわたし』の感想を書いてからだいぶ時間がたってしまいました。美しい海の表紙が目に眩しい二作目ですが、二作目の肝となる部分が南イタリアの美しいリゾート地での休暇シーンではないでしょうか。

 

主人公エレナとその親友リラは、小学校卒業後にそれぞれの人生を歩み始めます。進学をしてゆくゆくはナポリを離れピサで大学に進学するエレナ。かたや、年若くして地区の有力者のひとりと結婚をしたリラ。引き続きそれぞれの立場で自分の進むべき道を模索していくエレナとリラですが、一作目で描かれた少女時代の無知からくるみずみずしさは息をひそめ、大人になりゆく女性として「愛とは何か」を追求しはじめます。

(以下ネタバレ含みます)

 

リラとステファノの結婚生活は早いうちから破綻を始めていきます。アマルフィへの新婚旅行で夫の本性に気づいてしまったリラはステファノを拒絶します。一作目で子ども時代を見事に描写したエレナ・フェッランテの筆は、リラの結婚生活への絶望感をひりひりするような臨場感で切り取っていくのですが、これがまた実に見事です。二作目のタイトル『新しい名字』というのは、結婚して名字が変わることを示すものですが、リラにとっては自分を虐げる象徴としての意味が込められているのかもしれません。

実はこの「名字」は本作品の中で、今後三作目・四作目でもずっと大きな役割を果たし続けるモチーフであったりもします。

(結婚と名字といえば、現代日本でも夫婦別姓を求める声が多数あがっていますが、現代イタリアでは基本的に夫婦別姓のようですね。ヨーロッパでは法的に結婚したカップルの離婚手続が日本よりも遥かに煩雑のようなので、事実婚も増えているらしく、リラやエレナが青春時代を送った時代からはだいぶ変わってきているようです)

 

そんなリラが夏季休暇に向かったイスキアで恋に落ちる相手が、なんとエレナの想い人であるニーノ!笑

そもそも結婚してるのにこんなに堂々と不倫をするのどうなの??という描写が二作目の約半分を占めるのですが、しかもその相手が親友の想い人とは…。ただ、夫選びを「失敗」した後のリラがニーノとのひと夏の、しかし真剣な恋を通じて自分の人生に再び鮮やかな色彩を取り戻していく様子には、切ない共感を覚える人も少なくないのではないでしょうか。そして自分が選ばなかった方の人生を歩んでいく友人の姿に焦燥感を覚えて過ちを犯すエレナにも。

 

裕福な生活を捨ててニーノを選んだリラでしたが、最終的にはニーノとも破局し、幼馴染のエンツォとともに暮らし始めます。様々なものを失うリラではありますが、エンツォと暮らしているときのリラは「チェルッロ夫人」ともともとの名前で呼ばれているのが印象的です。波乱万丈の人生を歩むリラが自分の心を殺さずに生きていける生き方は「新しい名字」では叶わなかったのかもしれません。